「話しかけてもろくに返事をしない」、学校の話を聞いても「話してくれない」、食事を作っても部屋に閉じこもって出てこないなど急に子どもの態度が変わりだす「思春期」。
親や先生の言うことをきかず「キレる・逆ギレする」といった子どもの反抗的な態度には、親も困惑しますよね。
思春期の子どもを持つ親の9割以上が、わが子に不安を感じているという調査結果も出ています。
親の言うことやアドバイスを聞かず、向こう見ずな行動に走る我が子にイライラ、ハラハラが募るのは当然です。
しかし、それは自我の芽生えのひとつ、自己主張の現れであり、成長過程で誰もが通るもの。
反抗心を無理に抑えこんで、大人の言うことを聞かせようとするのは間違いです。
では、誰にでもやってくる反抗期を乗り切るには、どうしたらいいのでしょうか。
子どもがキレる原因は脳にある
「キレる」理由を理解しよう
思春期は、性ホルモンの分泌によって、毛やひげが生えてくる、胸がでてくる、生理がはじまるなどの身体的、性的な成熟が目覚ましく成長を遂げる時期だということは、ご存じの通りかと思います。
これまでの研究では、そうした身体の急激な変化に対する戸惑い、心と体のアンバランスさがストレスとなって、子どもたちを反抗的な態度へと駆り立てているのだといわれてきました。
しかし、思春期の子どもを対象とした最新の脳科学研究では、性ホルモンが目に見える身体的な成長だけでなく、脳にも劇的な変化を与えることが判明したのです。
脳のなかでも、とくに「扁桃体」というアーモンドの形の神経細胞の集まりが、性ホルモンの刺激によって、大人より敏感に反応することがわかってきました。
扁桃体というのは、「感情」を司る役目をしています。
扁桃体は、原始的な部分で第一印象(ファースト・インプレッション)で相手を「敵か/見方か」、「好きか/嫌いか」を判断する、いわゆる「直感」を働かせる部分です。
思春期の子どもたちは、その扁桃体が性ホルモンによる刺激で、過敏に反応するというのです。
扁桃体が過剰に反応すると、人はどうなるのでしょうか。
NHKの番組では、大人のグループと中学生のグループ、2つのグループに分けて、モニターで1人の表情の変化を読み取る実験を行っていました。
すると、中学生の多くが大人よりも早く、相手の顔の微妙な表情の変化に気づいていました。
この実験がご覧になりたい方は、NHKオンデマンドか、またはU-NEXTからご覧いただけます。
ネガティブ感情に敏感
「箸が転んでもおかしい年頃」とは昔からよく言ったものです。
思春期のこどもたちは、本当に小さな出来事にも過敏に反応し、感情を増幅させます。
しかも、人間の脳の特徴として、もともとプラスのことよりもマイナスなことを強く感じるという性質があり、思春期の子どもたちにはそれが特に編著に感情となって表れるのです。
それは、プラスなことは放っておいても大丈夫だけど、マイナスなことには、注意を向けてないと自分の命にかかわることもあるからです。
そのため、思春期の子どもたちは怒り、悲しみ、イライラするといった「負の感情」に対して、大人よりも何倍も「嫌だ」「辛い」「死にたい」といった嫌悪感を抱いてしまうのです。
それなのに、顔にニキビができて悩んでいる子どもに親がかける言葉といえば、「思春期はそういうものだから」「すぐ治るから大丈夫よ」などと軽口をたたいてしまいがち。
親に悪気はなくとも、子ども本人からすると死にたいと思い悩むほど重要な問題です。
それを軽く流されたと感じた子どもは、「親は私の気持ちをわかってくれない」という不信感や不快感、不満を抱いて「キレる」のです。
親が思っている以上に、子どもたち自身は、自分の心と身体の変化に不安を抱えていることを親は理解してあげることが大事です。
腫れ物扱いするよりも、向き合って寄り添ってあげることが、子どもの人格を発達させます。
子どもの反抗期を乗り切る対処法
会話のコツは、話さないこと
思春期の脳は、性ホルモンの刺激を受けて、ちょっとのことでも感情が爆発するとお伝えしました。
それなのに、親は口を開けば「片づけなさい」とか「いつまで寝てるんだ」とか「ダラダラするな」と、子どもに向かって小言ばかり言っていないでしょうか。
大人でも難しい案件の仕事を抱えてピリピリしている最中とか、時間や心に余裕がないときに話しかけられたらイライラしますよね。
同じように、思春期の子どもも好きなゲームに集中していたり、友達とのLINEを秒で返信しようとしているときに親から無遠慮に話しかけたりされると、キレますし無視もしたくなるものです。
そうした子どもの対応を見て、親は「態度が悪い」といって怒ったり、説教を始めるわけです。
こうした親子の会話は、コミュニケーションとは言えませんし、効果がないばかりか、“悪循環”でしかありません。
子どもをよく観察して、話しかけるタイミングを見抜くだけでも、子どもに「無視される」なんてことがなくなるかもしれません。
アドバイスせず、子どもの話を最後まで聞く
反抗期の子どもであっても、親に悩みや愚痴を聞いてほしいときがあります。
しかし、このときに親がやりがちなのが、すぐに励ましやアドバイスをすることです。
「そのくらい大丈夫だよ」とか「そんなの大したことじゃないから元気出して」といった励まし。
「じゃあ、こうすればいいじゃない?」とか「なんでこうしないの?」と上から目線でアドバイス。
そうされると、子どもは「親に話してもムダ」と絶望してしまいます。
一度絶望されると、もう親には二度と大切な話を相談しなくなるでしょう。
子どものから話を聞くとき、まずは「共感」してあげることが大事です。
たとえば、子どもが「今日は先生に怒られた」と言ったとき、「アンタの態度が悪いからでしょ!」といえば、ますます何も言わなくなってしまいます。
まずは、「そうなの?それは嫌な思いをしたわね」と、最後まで共感的に話を聞いてあげてください。
そうすれば、子どもは話しやすくなりますし、共感的にたっぷりと愚痴を聞いてもらえると子どもの気持ちもすっきりします。
普段から「親は自分の気持ちをわかってくれる」と信頼されていていれば、子どもが何かトラブルが起きたときには、きちんと話をしてくれるようになるのです。
子どもが安心できる居場所づくりを
前述のとおり、反抗期の子に対して、軽口や小言を言うのはやめた方がいいです。
しかし、だからといって、声かけをまったくやめてしまうのは、よくありません。
家族からの声かけが何もないと、子どもは「無視された」、「見捨てられた」と感じてしまうからです。
子どもからの返事が期待できなくても、「おはよう」、「いってらっしゃい」、「おかえり」といった挨拶はしてあげてくださいね。
普段から親の愛情を実感できている子は、たとえ、外で悪い誘惑があったとしても、「親に心配かけたくない」という意識が働いて、ブレーキがかかります。
親との関係が良好でない、家に居場所がないと感じている子どもは、いざというときにブレーキがかからないまま、悪い方向に向かってしまう可能性が高まりますので、普段から心地よい声かけを心がけていきましょう。
子どもの心を閉ざすNGワード
思春期は「やたらとキレる」、「反抗する」、といった子どもの態度に注目しがちですが、親や周囲の大人のささいな言動が、子どもたちをそうした態度にさせているということを忘れてはいけません。
ここでは、親が無意識に口にしている子どもの心を閉ざすNGワードをご紹介します。
「後にして」
仕事から帰って夕飯の支度にとりかかる夕方の時間は、子どもが学校から帰ってくる時間とも重なります。
この時間に、学校で何があったかをじっくり聞いているヒマはありませんよね。
「テストで100点とった~」と喜んで帰ってきても、「ともだちに意地悪されて嫌な思いをした」と落ち込んで帰ってきても、「その話、後にしてくれる?」と言われたら、子どもはもう話す気になれません。
まずは、子どもが話しかけてきたら、その顔の表情や様子を必ず見てあげて下さい。
いま聞かないと話してくれないような深刻そうな話なら、家事の手をとめて聞いてあげる。
後回しでもいい内容なら、「その話、ごはんの後に聞かせてくれる?」とひとこと付け加えてもいいです。
「いま忙しいから後にして!」という拒絶ではなく、「待っててね」と言い換えるだけで子どもは安心します。
そして、子どもが話はじめたら、途中で口をはさんだり、アドバイスをしないことです。
「~しなさい」
子どもに命令形で伝えるのが口癖になっている親御さんも多いのではないでしょうか。
心理学者のジョナサン・フリードマンは、「このおもちゃには絶対触ってはいけない!」と強く命令したグループと、「このおもちゃは触らないでね」と軽く注意を促しただけのグループで実験を行いました。
すると、監視員がいなくなっても軽く注意を促されたほうのグループは67%が約束を守れたのに対して、強く命令されたグループは23%しか守れなかったという結果がでました。
つまり、人は誰かに命令されたり、強制させられたときは、強く反発して約束を破りたくなるのです。
「宿題しなさい!」、「片付けなさい!」という声かけが、子どもにとっていかに逆効果かということがわかりますよね。
宿題をしてほしい、部屋を掃除してほしいなら、「~しなさい」と命令するのではなく、「勉強は何時からやる?」「部屋片づけてくれると助かるな」といった子どもが自主的に動くような言葉に置き換えましょう。
「当たり前」「当然」「~するべき」
親の言うことに子どもが反抗したときに、「子どもなんだから言うことを親の聞いていればいいいの!」と思ったことはありませんか?
子どもは親の言うことを聞くのが「当たり前」。
生活できてるのは親のおかげなんだから、「そんなの当然でしょ」。
子どもは勉強するのが仕事なんだから「宿題するべきでしょ」。
親のほうに、子どもを養ってやっている、お世話してあげているという上から目線な考え方があると、どうしても無意識に「そんなのいいから!親の言う通りにしなさい」という言葉が出てきてしまいます。
そうした親の決めつけで、子どもが「言い返せない」状態や環境をつくってしまうと、子どもは思考が停止してしまい、自分では何も考えない、何も決められない、言われた事しかできない無気力な人間になってしまうので注意したいところです。
まとめ
思春期の子どもたちは、悩みごとも多く抱えています。
しかし、残念なことに、その悩みを相談できる相手は親ではない場合が多いのです。
たとえ、いじめにあっていても「親は話さなかった」、「親にだけは知られたくない」というケースは少なくありません。
「親に言ってもムダだ」と思われないためには、普段から子どもの話を「しっかり最後まで聞く」、「共感してあげる」ことを習慣にして、信頼関係を築くことが重要です。